騎士と塔の姫 00


───かみさまなんて信じない。
そう呟いた声は酷く幼く。
胸に焼け付くような痛みを与えた。



少女はそう言った。空に手を伸ばして。小さな窓から覗く光と風を求めて。
「ねぇ、あなたはほしいものがある?」
冷たい鉄格子の向こう側。白いワンピースがヒラリと揺らめく。少女の長い真っ黒な髪の毛が床へ広がっている。
彼女の視線はこちらを向かない。ただ真っ直ぐに高い窓の外へ手を伸ばし背を向けたまま。
「…さあな」
自分の声が反響して冷たい灰色の空間に響いた。彼女と違い、低い男の重みのある声。
少女は腕を下ろしてそれでもまだ空を見上げたまま。
「ふーん、あなたはいつもここにいるものね」
彼女の言うことはいつもよく分からない。後ろ姿は細いけれども年頃の少女の物なのにそこから聞こえる声は何処か幼い発音。
実際の年齢など、自分が知っているはずもなかった。──それこそ、自分は彼女の顔も名前すらも知ってはいないのだから。
知っているのは、その声と髪の色、この牢に捕らえられていることと…─いつも空を見上げているということだけだ。



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